この記事は、
の続きです。
この記事も、用具の仕様説明のコーナーではなく、自分が使ってみて思うこと、などのお話です。
【(革を縫う)工業用ミシンの押えについて】
日本語だと、押え、押さえ、押え金、など、幾つかの言い方と表記があります。
ここでは、「押え」と書くことにします。
この記事のシリーズ『その1』でも書いたのですが、
(引用)
『革を縫うのによく使われる上下送りミシンや総合送りミシンは、2つの押えの動き(人が歩く時の脚の動きと似ていて、交互に革を上から押さえながら動いて送る)と、下側にある送り歯とが、うまく連動して革を送るため(総合送りミシンは、2つの押えと送り歯に加えて、針の動きも送りを助けている)、押えも2つ必要、と思っていれば良いと思います。』
そういうわけで、「総合送りミシン」と「上下送りミシン」は、「外押え」と「中押え」という、2つの押えを付ける必要があります。
この動きになぞらえてだと思いますが、英語だと、
(普通の1つの)押えを [presser foot] というと思いますが、
2つの押えがあると [walking foot] と呼ぶこともあるようです。
なんだか押えが自分で歩いてくるイメージ、面白いですね。
「工業用ミシン」のうち、付ける押えの数が1つのミシン用の場合は、押えの種類がとても多く、カタログがパンフレットではなく「本」になっているくらいです。
それに対し、「総合送りミシン」と「上下送りミシン」の押えは、種類がとても少なく、カタログは、1ページとか、そんな感じです。
あくまで革用の工業用ミシンにおいてですが、私の知る限りでは、総合送りミシンの押えよりも、上下送りミシンの押えのほうが、種類が少しだけ多いようです。
総合送りと上下送りのミシンの種類が少ない理由の一つに考えられるのは、「外押え」と「中押え」を組み合わせて付ける必要があることが関係していると思います。
例えば、はじめに使いたい中押えを選んで、その中押えの幅に合わせて外押えを選ぶとして、その組み合わせの数を考えたら、沢山あります。でも、そこまで買い手のニーズが多く無いので沢山の種類が用意されていないのかな?とも思います。
そもそも工業用ミシンの押えは、家庭用ミシンや職業用ミシンの押えに比べ、値段がかなり高めで、たくさん揃えようとすると、ハードルが高いです。
なお、オリジナルの押えが欲しい場合は、ミシン部品を生産してくれるミシン屋さんもあるので、オーダーできますが、値段は高いです( ´∀` )
先ほども書いたとおり、そもそも押えの種類が少ないのに、革を縫う場合、押えの底がフラット(ギザギザが無い状態。「歯」が付いていないもの)でないと、革に傷が付いてしまうので、さらに押えの選択肢が減る、という悲しいポイントがあります。
【ミシンのタイプごとの押え】
そもそも家庭用ミシンの場合、とても安価なミシンを除いて、だいたい、どのメーカーのどの機種でも、ジグザグ縫い(裁ち目かがり)、ボタンホール作り、まつり縫い、などはできるようになっていると思います。はじめから、純正の押えが何種類か付いてきます。
洋服を縫ったりするにはそれらの押えで充分な場合が多いので、押えのことを調べてみようと思うきっかけがあまり無いかもしれません。
職業用ミシンの場合、工業用ミシンの押えを使うタイプがあり、その場合だと、かなり多くの押えの選択肢があります。
私の場合、買うときに押えのことはあまり念頭になかったのですが、結果的に、工業用ミシンの押えが付けられるミシンを買ったので、色々な押えを付けられて使い勝手が良いです。でも、はじめから色々な押えが付けられると知っていたわけではなく、玉縁(パイピング)を縫おうと思ったとき、初めて押えのことを調べました。
工業用ミシンにおいて、上下送りミシン用と、総合送りミシン用の押えを買う場合、殆どがミシンメーカーの純正品ではなく、汎用品を買うことになるように思います。カタログに載っているのは、主に、次の用途のものです。
●端から決まった幅で直線縫いをする
→「xxミリ(爪付き)押え」
⇒これは、吊定規やマグネット定規で対応できます。なんとか買わなくてもOK。
●玉縁(パイピング)を作る
→「パイピング押え」
⇒中押え、外押え、セットで買う必要があります。
※パイピング押えの底は、パイプが通るように丸くえぐられています。
※パイピングの円の直径は種類があるため、パイピング押えも、その直径ごとに種類があります。縫いたいパイプの太さや、巻きたい革の厚さで考えて選択すれば良いと思います。
●鞄の丸い持ち手を作る
(丸い紐芯を持ち手の革に「先に入れて」、持ち手が丸い状態で縫う)
→「丸手押え(丸手紐押え)」
⇒中押え、外押え、針板、送り歯の、セットで買う必要があります。
※玉縁(パイピング)押え同様、持ち手の直径によってセットを付け替える必要があります。
※ある程度の慣れ、練習が必要です。
丸い持ち手の際に「垂直に」針を落とすには、丸い持ち手の下半分の半円が、針落ちの位置よりもさらに下側に位置していなければなりません。そのためにはまず、中押え、外押えをセットで付けて、針落ち位置の上側に半円形を作り、次に、送り歯と針板をセットで付けて、針落ち位置の下側に半円形を作ります。これで、丸い持ち手を挟んで縫い進めることができます。
そして、この4つともパーツが取り替えられるのは、「腕ミシン」だけです。平ミシンでは、構造的に、丸手押え用の送り歯(左側に金具が突出している)を付けることができません。
腕ミシンでは、4つのパーツを付け替えることによって、丸い持ち手の際(きわ)に垂直に針を落とせます。
一方、平ミシンでは、外押えと中押えを変えることで、なんとか丸い持ち手を縫うことができます。ただ、先ほど書いたとおり、構造的に、左側に突起のある送り歯に変えることができないため(送り歯を変えないので針板も変えない)、針板の上に丸い持ち手が全て乗っかった状態で縫うことになります。縫う所を針板にギュッと押し付けて縫うので、厳密には、持ち手の際(きわ)に針が垂直には落ちていません。
<持ち手が針板の上に置かれた状態の比較>
↓は針、 〇は持ち手、 ―と_は縫う所、 をそれぞれ指しています。
・腕ミシン(持ち手の上下の中央に、縫う所を配置できる)
↓
〇ー
・平ミシン(持ち手の上下の底側に、縫う所が配置される)
↓
〇_
比較すると少し違うよ、ということではあるのですが、平ミシンしか持っていなくても丸手の外押えと中押えがあればなんとか縫えますので、試す価値はあると思います!
さて、手縫いで丸い持ち手を作るのは、結構、時間がかかりますよね。やっぱりミシンで手早く縫いたいという場合に、もうひとつの方法として、先に革を縫い合わせて空洞を作っておいて、後で紐芯を通す方法(よく裁縫で行う方法)があります。
これで妥協すれば、この丸手押えは、無くてもOKだと思います。
ただし、この方法だと、革の床面は滑りが悪いので、紐芯の素材によっては、摩擦抵抗が強くてうまく通せない場合がよくあります。プラスチックに消しゴムを混ぜて練ったような素材の丸芯は、なかなか通らなくて諦めたことがありました。手紐芯には他に、表面がツルツルのプラスチックの丸芯、丸い紐状の繊維でできた芯、など、素材の質感が違うものが色々あります。いずれにしても、革に皴が寄らないようにぴったりの大きさの紐芯を通すのは、なかなか作業が進まなくて、案外、ひと苦労です。
丸手押えのセットは、腕ミシン用で4パーツとなると、決して安いとは言えないので、自分に必要かどうかで判断してみてください!
●革の端にテープ付けをする
→「バインダー押え」(ラッパ)
⇒先にテープを革に接着などで固定すれば、この押えは不要です。
※確か、バインダー押えがそもそも付けられないミシン(特に腕ミシン)の機種もあると思います。
※バインダー押えなど、ラッパ型(トランペットのような形)の押えは、「20㎜幅のテープ用」など、使えるテープの幅が厳密に決まっている場合が殆どです。
ここまで、押えについて、思うところを書いてみました。
押えは何かと情報量が多いので、また何か思い出したら、追記していきます。