革を縫うミシンのお話
工業用ミシン購入の検討の際に
その1
この記事は「このミシンはこんなことができますよ」という仕様の説明コーナーではなく、革のミシンを買おうかな?と検討中の方へ、自分がミシンを使っているときに感じてきたことを書いてみます。
私は家庭用ミシン、職業用ミシン、工業用ミシン2台、を持っています。
どれも、革が縫える機種です。
工業用ミシンについては、以前は総合送りミシンを使っていましたが、現在は、上下送りミシンを使っています。
とはいえ、「総合送りミシンってなに?」という方も居ると思うので、少し基本的な説明は入れたいと思います。
【革用ミシン それぞれ】
●工業用ミシン
殆どの場合、直線しか縫えません。
縫目の綺麗さは、家庭用ミシンでの縫目と比べると、やはり違いが分かってしまいます。最も綺麗ではないかと思います。
工業用ミシン → 職業用ミシン → 家庭用ミシン
この順番で、「送りのパワー」、「縫目の美しさ」は、だいたい比例して減少していきます。
これだけ聞くと、工業用ミシンを使ったほうが良いように思えますが、実際、工業用ミシンを買うとなると、ミシンテーブルの上に載っているアタマ部分だけで30キロ以上の重さがあり、テーブルも最低で幅70センチ・奥行60センチくらい以上は必要になります。値段はピンキリですが、ミシンを買う値段というよりは、ひとつの設備機器を買うような値段の感覚に近くなります。
それに、置く場所があっても、2階以上に運ぶ場合は2人以上のミシン屋さんに運んでもらって、設置してもらって、調整してもらって、などの事情も付加されてきます。
これを趣味の範囲で用具の一つとして買うのはかなりハードルが高いです。
「工業用ミシン」とひとくくりに言っても、
まずは、アパレル(衣服)用、ノンアパレル(衣服以外)用、などのカテゴリ分けもできます。
ノンアパレル系で革を縫えるミシンにおいては、主に靴を縫うためのミシン、主に鞄や服飾雑貨を縫うためのミシン、などなど、日本で「八方ミシン」「腕ミシン」などの呼ばれかたをするようなカテゴリ分けもできます。
『送り』のしかたにおいては、「総合送り」「上下送り」「針送り」・・・などのカテゴリ分けもできます。
ボビンに巻ける下糸の長さによっては、標準釜か、倍釜か、といったカテゴリ分けをすることもできます、
何を基準としたカテゴリ分けにするか、その軸となる要素によって、ピボットテーブルのような感じで、色々なカテゴリに属するミシンが出てくる、ということになります。
<工業用ミシンの検討ポイント>
・送りのパワーが最も強い総合送りが良いか?上下送りが良いか?
・下糸の長さを長く巻ける倍釜仕様が良いか?標準釜で充分か?
・一般的なミシン(平ミシン)が良いか?小回りが利く腕ミシンが良いか?
●職業用ミシン
多くの場合、直線しか縫えません。
当然ミシンのメーカーや機種によりますが、家庭用ミシンとほぼ同じ価格帯のミシンも多く、置き場所もそれほど取りませんし、家庭用ミシンより少し重いくらいで自分で持ち運んで容易に使用場所を移動できるミシンも多いです。
では、直線しか縫えないし、家庭用ミシンと見た目もさほど変わらない職業用ミシン、なぜ存在するのでしょうか?
家庭用ミシンのパワーでは送りが物足りない、縫目が綺麗に出ない、などの不満がある場合に職業用ミシンを買う、というケースが殆どでしょう。
一般家庭で工業用ミシンを買うケースは稀なので、こういった選択肢になるのだと思います。
ですので、そもそも工業用ミシンを買おうか悩んでいるような人にとっては、最も中途半端な立ち位置のミシンとも言えます。
でも、メリットが無いわけではありません。
それは、工業用ミシン(工業1本針本縫いミシンのものを使用。総合送り・上下送りミシンの押えなどを除く)の押えを使えるので、種類が豊富にある点です。
有名な会社・ブランドでは、ニッポー、スイセイなど、一冊の本でカタログが出ているくらい、種類が沢山あります。カタログは誰でもサイトから取り寄せできます。
押えの種類が豊富だとなぜ良いのでしょうか?
例えば、端から3ミリで縫いたい場合、右爪付3ミリ、といった押えを付けて縫うと、手を添えているだけで、ズレる心配もなく、ずーっと端から3ミリで縫ってくれます。
それはすなわち、縫う対象物に、予め端から3ミリに線や印を付けておいたりする必要が無いのです。
このように、職業用ミシンの押えをうまく使うと、とても早く作業を進められます。
押え1個の価格も、そう高くはないです。
沢山揃えれば確かにコストはかかりますが・・・( ´∀` )
押えの付け替えも、ネジを締める手間はありますが、さほど時間がかかるというほどでもありません。
というわけで、1台持っていると、なかなか使える機会も多いです。
ちょっと工業用ミシンの話になりますが、
革を縫うのによく使われる上下送りミシンや総合送りミシンにも、もちろん押えの既製品はあるのですが、カタログ1枚で収まるくらいの種類しかないことが多いです。
工業用ミシンのうち、押えが1つだけのミシンの場合は、単純に使いたい押えに付け替えるだけですが、上下送りミシンや総合送りミシンは、外押えと中押えの2つの押え金を組み合わせて付ける必要があります。この組み合わせを考えていくと、膨大な数の押えを作らなければならないと思いますので、そもそもあまり種類が出回っていないのかな?と思います。
革を縫えるミシン=革をスムーズに送れるミシンだと言えると思います。革を縫うのによく使われる上下送りミシンや総合送りミシンは、2つの押えの動き(人が歩く時の脚の動きと似ていて、交互に革を上から押さえながら動いて送る)と、下側にある送り歯とが、うまく連動して革を送るため(総合送りミシンは、2つの押えと送り歯に加えて、針の動きも送りを助けている)、押えも2つ必要、と思っていれば良いと思います。
ですので、逆に言うと、同じ工業用ミシンであっても、1つの押えだけを付けるミシンでは、送りの動作を送り歯だけに頼ることになり(家庭用ミシンや職業用ミシンと同じ仕組み)、スムーズに革を送れない、ということが発生すると思います。
上下送りミシンや総合送りミシンの押えを買うときに気を付けたいのが、新たに中押えだけ買って付けてみたら、それに組み合わせられる外押えが無く、新しい外押えも追加で買うことになった、なんてことがあることです。使いたい中押えを決めたら、その中押えの幅によって、外側に付けられる外押えの種類が決まってきてしまうためです。
また、既製品以外の押えが欲しい場合は、ミシン屋さんでミシンパーツを作っている会社に、オーダーして作ってもらうしか方法がありません。価格もかなり高くなります。
●家庭用ミシン
直線縫いはもちろんですが、ジグザグ縫いで布のかがり縫いができることが大きなメリットだと思います。
他に、押えを変えれば、ボタン付け、ボタンホール作り、ギャザー寄せ、裾上げ時のくけ縫いなどもできるので、洋服などに活用できます。
下糸は、水平釜タイプと、垂直釜タイプがあり、それぞれによって針落ちの位置がわずかに違うようです。
ですので、押えは、メーカー純正を使うのが基本ですが、純正品でも汎用品でも、機種によっては使えないことがあるため、注意が必要です。
現在まだミシンを持っていなくて、これから革用のミシンの購入したい場合でも、ぜひまずは1台は持っておきたい種類です。
鞄の内布の縫代のほつれ止め処理は、やはりジグザグ縫いで行うほうが早いし綺麗です。
ほつれ止めを接着剤で行う方法もありますが、「ホツレーヌ」などを塗るのも、意外と時間がかかりますし、なにより、糊を塗るわけですから、糊が布に染み出して、仕上がりが綺麗ではありません。
●それぞれを使ってみて
では、趣味でレザークラフトをする、という使用頻度の場合、どのミシンが良いでしょうか?
職業用ミシンにする?
この記事では、そもそも工業用ミシンを買おうか検討している人に向けて書いているので、職業用ミシンを選択肢に入れていないかもしれませんが・・・。
縫目に関しては満点にはなりにくいですが、糸調整をきちんと行えば、職業用ミシンでも、ある程度、綺麗に縫えます。
かなりの厚さまで縫えるモーターパワーの強い機種がありますので、パワーのある機種選びがポイントになってくると思います。
厚手のヌメ革を貼り合せた小物などを作りたい場合は、工業用ミシンでないと、針が折れたり、送りのパワーが弱くてミシンが進まないことが発生します。
自分がどんな物を縫いたいのか?
縫う革の厚みと、ミシンのパワーのバランスが、検討の鍵です。
また、家庭用ミシンの項で書いたとおり、殆ど機種ではジグザグ縫いなどができないので、「布を併用した革の作品を作りたい場合」は、結局、家庭用ミシンも必要かな?と思います。
やっぱり工業用ミシンにする?
例えば、すでに職業用ミシンを持っていて、よく針が折れる、なかなか革が送れず、進まないので同じ所に何度も針が落ちたり、短いピッチで縫うはめになってしまう。
そんな経験をすると、「やっぱり工業用ミシン買おうかな~?」っとなってきます。
ここは、買うかどうかのターニングポイントなのですが、実際に買うかどうかは、前述した様々な理由(重さ、置き場所、予算など)があるので、人それぞれです。
さて、
工業用ミシンの送りの種類のうち、「総合送りミシン」は、送る力が最もあると思えば良いですが、革であれば「上下送りミシン」で充分かと思います。かなり分厚い革でもきちんと送ってくれて、縫えます。
体感的には、例えば分厚い車の内装シートを縫うとか、かなり大きなパワーが必要な場合は、恐らく上下送りミシンでは縫う対象物が送れないと思うので、そういう用途には総合送りミシンが適していると思います。
総合送り、上下送りのメカニズムは検索などで調べればわかることなので、ここには書きませんが、ミシンの画像を調べてみると良いです。
すると、それぞれの「押え」のタイプが全く違うことに気づくかもしれません。
押えなどのアタッチメントなどについては、後日、パート2として日記に書いてみたいと思います。
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